北上せよ/生きている

● カラス/羊の話

ジェフ・バックリー」を聴きながら、ヨコハマのネカフェより。ここにきて3ヵ月。ほぼ毎日「くるり」の歌う「赤い電車」に乗って北上し、おそらく東京で一番空の広い場所で鋼鉄のケモノをてなづけるながら、都市の生殖器(意外と小さいな!)「東京タワー」を見つめている私。日が暮れるとやっと南下して小動物が厳しい冬を越すために地に穴を掘るように巣づくりに励む私。そう、私は私が描いていたとうり、この都市の歯車の一部として着実に機能しつつある。入り口から出口へと群れをなす品川のカラスに紛れた羊の話。減退する性欲。増殖してゆく物欲。エロビデで見たような茶色い女子高生と地下街ですれ違ったとしても最早私は何も感じることなく、イカレタ家具屋の前でただ指をくわえているだけ。誰も私が羊だとは決して気づくまい。

時には、多摩川で昼寝をしながら遠めに見える高層ビルに、暗がりの夜道を照らす街灯に私だけの秘密の疑問をそっと尋ねてみることもある。「山手線の中心地はどこにある?」「やみくろはどこにいる?」「憎しみに水をやりたいのだけど受け皿はオームの抜け殻でいいのだろうか?」「やはり全てはあなたの身代わりなのだろうか?」。かつての記録を手掛かりに奪われた眼を探すこと。郷愁なんて全く見えない。